プロメガ実験ノート vol.10 HaloTag® を利用した「簡単で、正確で、高感度なオートファジー定量法」の開発と社会実装に向けて
プロメガ実験ノート vol.10 HaloTag® を利用した「簡単で、正確で、高感度なオートファジー定量法」の開発と社会実装に向けて オートファジーは、細胞内のタンパク質やオルガネラをリソソームで分解して再利用する細胞内品質管理システムです。細胞の恒常性維持に重要な役割を果たし、神経変性疾患、がん、感染症など多くの病態との関連が知られています。そのため、オートファジー活性を正確に測定する技術は、基礎研究から医学研究まで幅広い分野で必要とされますが、これまで哺乳類細胞でオートファジー活性を定量する手法は限られていました。そこで筆者らは、誰でも、簡単に、正確に、高感度にオートファジー活性を定量できる手法を開発したいと考え、試行錯誤の末、HaloTag®(Promega)を利用した「HaloTag®processing assay1」の確立に至りました。本稿では、従来型のオートファジー定量法と筆者らが開発したHaloTag®processing assayについて概説した後、これらの手法を使った「オートファジー活性測定の受託解析(Wellness AP Science)」について紹介させて頂きます。 日本医科大学先端医学研究所遺伝子制御学部門山本林様 プロメガ 図1.GFP-LC3-RFPassayの概要 A.哺乳類細胞でGFP-LC3-RFPを発現させると、ATG4による切断を受けてGFP-LC3とRFPが等量生成される。B.GFP-LC3はオートファゴソーム膜に局在し、オートファジーの進行に伴ってリソソーム内に運ばれて分解される。サイトゾルに局在するRFPを内部標準として、GFP/RFP蛍光比を計算することでオートファジー活性をGFP-LC3の減少量で見積もることができる。図は「実験医学別冊・オルガネラ実験必携プロトコール」より転載・改変。 1.これまでのオートファジー定量法 オートファジー活性の測定法として広く使われているLC3/ATG8 flux assay2(LC3/ATG8 turnover assay)は、オートファジーの進行に伴って形成される脂質化LC3/ATG8の量を、リソソーム阻害剤(オートファジー阻害剤)処理の有無で比較することにより、オートファジーの進行状況を推定する手法です。内在性のLC3/ATG8をウェスタンブロッティングで検出するという簡単な手法であるため、広く使われていますが、定量性や感度が低く、結果を正しく解釈するにはリソソーム阻害剤処理との比較が必須である(にも関わらず比較データがない論文が散見される)など、いくつかの問題があります。 蛍光タンパク質を利用したレポーター法も開発されており、代表的な手法としてtfLC3 assay3(tandem fluorescent-tagged LC3 assay)やGFP-LC3-RFP assay4があります。GFP-LC3-RFP assayでは、GFP-LC3とRFPが等量生成されるため、オートファジーの進行に伴って分解するGFP-LC3の蛍光を、内部標準となるRFPの蛍光と比較する(蛍光比を計算する)ことにより、オートファジー活性を「GFP-LC3蛍光の減少量」として読み出すことが可能です(図1)。細胞ごとのオートファジー活性を生細胞のまま定量することができるため、CRISPRスクリーニングやsiRNAスクリーニングにも応用される優れた手法ですが、フローサイトメーターや蛍光顕微鏡が必要であることや、十分なシグナルを得るために比較的長時間の誘導が必要になるといった制限があります。 Vol. 10 2.HaloTag®processingassayの開発 筆者らは、もっと簡単にオートファジー活性を定量できないかと考え、出芽酵母でオートファジーの定量に使われているGFP processing assay5 を応用しました。最初に出芽酵母での手法をそのまま哺乳類細胞に持ち込んでみたものの期待した結果が得られず、①哺乳類細胞は出芽酵母と比較して恒常的オートファジーの活性が高い(バックグラウンドが高い)、②哺乳類細胞のリソソームは出芽酵母の液胞よりも分解活性が高く、GFPはリソソームで分解されてしまう、といった問題があることが分かりました。これらの問題を解決するには、リガンド添加によって構造が安定化するタンパク質をプローブとするのが理想的であり、リガンド共有結合型タグタンパク質のHaloTag®に辿り着きました。HaloTag®-LC3をHeLa細胞で安定発現させてみると、オートファジーによってリソソームに運ばれたHaloTag®-LC3は、リガンド未添加では全体が分解されるが、オートファジー誘導前にリガンドを添加するとHaloTag® 部分がリソソームでの分解に耐性となり、オートファジー活性に依存した量のHaloTag®断片を生じることが分かりました(図2)。 図2. HaloTag®processingassayの概要 A.オートファジーの進行に伴ってリソソーム内に運ばれたHaloTag®-LC3は、リガンド未添加では全体が分解されるが、HaloTag®に共有結合する蛍光性リガンドHaloTag®TMRLigandを添加すると、HaloTag®部分がリソソーム内での分解に耐性となる。B.HaloTag®-LC3を安定発現させたHeLa細胞(WTおよびオートファジー不全FIP200KO)を、HaloTag®TMRLigandで30分間処理した後、栄養飢餓6時間処理することでオートファジーを誘導した。HaloTag®-LC3およびHaloTag® 断片の検出は抗HaloTag®抗体を使ったウェスタンブロット(左パネル)またはSDS-PAGEゲルのin-gel蛍光検出(右パネル)で行った。[出典は左記参照] 図2の出典:YimWW-Y,YamamotoH,MizushimaN.eLife.2022;11:e78923(https://doi.org/10.7554/eLife.78923)Figure 1bを一部改変(矢印・注釈の追加)。©2022Yim,Yamamotoetal.CCBY4.0ライセンスに基づき使用。 ウェスタンブロット In-gel蛍光検出 Halo-LC3 Processed Halo(~33kDa) 75 50 37 25 0 6 0 6 0 6 0 6 0 6 0 6 0 6 0 6 WTHeLa FIP200KO +TMR ligand WTHeLa FIP200KO WTHeLa FIP200KO +TMR ligand WTHeLa FIP200KO Starv.(h) この差がオートファジー 活性に相当 3. 選択的オートファジーや一般的なタンパク質分解の定量に応用可能 HaloTag®processing assayの大きな特徴は「汎用性の高さ」です。従来法はLC3やp62など、オートファジー依存的な変化量が大きなマーカータンパク質を指標にした増減測定が中心でした。一方、本法では任意のタンパク質にHaloTag®を融合して、そのタンパク質の分解量を直接評価できます。例えば、ミトコンドリア局在タンパク質ならMitophagy、小胞体局在タンパク質ならER-phagy、神経変性疾患関連タンパク質ならその分解を、それぞれ定量可能です。このように様々な選択的オートファジー経路の解析に応用できる点は本法の大きな利点です。さらに、本原理はオートファジーに限らず、リソソーム輸送経路全般や、エンドソーム・リソソーム膜の膜陥入過程の定量など、幅広い応用が期待されます。 4. オートファジー活性測定の受託解析 近年、オートファジーは細胞内品質管理システムとしてだけでなく、加齢、生活習慣病、神経変性疾患、免疫、さらには健康寿命との関連も注目されており、食品、機能性素材、医薬品など様々な分野で「オートファジーを活性化する」ことを目的とした研究開発が進められています。しかし、候補化合物や素材が実際にオートファジーを活性化しているかを定量的に評価することは容易ではありません。筆者が技術顧問を務めるWellness AP Science株式会社では、本稿で紹介したHaloTag®processing assayとGFP-LC3-RFP assayを用いたオートファジー活性測定の受託解析を行っています。研究目的やサンプルの特性に応じて最適な解析系を提案し、培養細胞を用いた定量的なオートファジー評価をサポートしています。オートファジー研究で培われた技術を、食品・機能性素材・医薬品などの研究開発や健康科学へと橋渡しすることで、新たな価値の創出に貢献したいと考えています。 5.今後の展望析 HaloTag®processing assayは、高感度・高定量性・高汎用性を兼ね備えた新しいオートファジー解析技術です。オートファジー研究の進展とともに、定量性の高い評価系への需要は今後さらに高まると考えられ、本法はその有力な選択肢の一つとして、幅広い研究分野で活用されることが期待されます。一方で、本法は生細胞を選別する用途には使えないため、生細胞でのハイスループットスクリーニングに優れるGFP-LC3-RFP assayとは互いに補完的な関係にあります。これら二つの相補的な解析技術が、基礎研究から創薬・食品・健康科学まで幅広い分野で活用され、オートファジー研究のさらなる発展とその成果の社会実装に貢献することを期待しています。 当初は、様々な工夫をしたのですが、哺乳類細胞ならではの問題が次々に発覚したため、この研究を保留している時期がありました。そんな折、偶然見かけたPromegaのHaloTag®ホームページで重要なヒントを見つけたため、研究をリスタートすることにしました。 HaloTag®を使い始めてからは順調で、最初のポジティブデータをラボミーティングで紹介した際には、当時大学院生だったYimWillaさんが「この系、すごいですね」と興味を持ってくれました。そこからは二人で協力しながら実験を進めることにしたのでとても順調に進めることができました。 こんなところで苦労しました 1. Yim WW-Y, Yamamoto H, Mizushima N. eLife11, e78923 (2022) 2. Tanida I, Minematsu-IkeguchiN, Ueno T, KominamiE. Autophagy 1, 84-91 (2005) 3. Kimura S, Noda T, Yoshimori T. Autophagy 3, 452-460 (2007) 4. KaizukaT, Morishita H, Hama H, et al. Mol. Cell 64, 835-849 (2016) 5. Shintani T, Huang W-P, StromhaugPE, KlionskyDJ. Dev. Cell 3, 825-837 (2002) 参考文献 オートファジー活性測定の受託解析はこちらから 早稲田大学発バイオベンチャーのWellnessAPScience株式会社(早稲田大学・原太一教授、https://www.cellfood.co.jp/)では、GFP-LC3-RFPassayとHaloTag®processingassayを用いたオートファジー活性測定の受託解析を行っています。フナコシの受託解析ホームページ(https://www.funakoshi.co.jp/contents/72570)で詳細をご案内しています。 HaloTag®の特性上、従来法に対し次の利点があります。①リガンド添加後から定量可能なため、添加前の恒常的オートファジーの影響を受けずバックグラウンドが低い。②HaloTag®断片をウェスタンブロットで検出するため、フローサイトメーターや蛍光顕微鏡等の装置が不要。③分解を断片生成という「増加」として捉えるため高感度で、誘導後1〜2時間で明瞭なシグナルが得られる。④長時間誘導でも直線性が良く、定量比較に適する。⑤全長HaloTag-LC3 自身が内部標準となるため、リソソーム阻害剤との比較実験が必須ではない。⑥HaloTag®TMR Ligand等の蛍光リガンドでゲル上直接蛍光検出が可能となり、失敗しやすいウェスタンブロットを省略しつつ、広いダイナミックレンジと時間短縮を両立できる。以上より、HaloTag®processing assayは出芽酵母のGFP processing assayをHaloTag®に置き換えただけの簡便な方法でありながら、従来法の課題の多くを解決する優れた定量法といえます。 プロメガ株式会社 本社〒103-0001 東京都中央区日本橋小伝馬町1-5 PMO日本橋江戸通7F Tel. 03-3669-7981 大阪事務所〒541-0051 大阪府大阪市中央区備後町4丁目1-3 御堂筋三井ビルディング4階 Tel. 06-6202-4581 日本語 Web site : www.promega.co.jp 学術部 ● Tel.03-3669-7980● E-mail:prometec@jp.promega.com 販売店: PK2609-03BP *製品の仕様、価格については2026年9月現在のものであり予告なしに変更することがあります。*HaloTag®はPromegaの登録商標です 製品名 サイズカタログ番号 関連製品 pHTNHaloTag®CMV-neo Vector 20 μg G7721 Anti-HaloTag®Monoclonal Antibody 200 μg G9211 pHTCHaloTag®CMV-neo Vector 20 μg G7711 HaloTag®TMR Ligand 30 μl G8251 Promegaテックからの一言 HTSに最適なAutophagyLC3HiBiTReporterAssaySystem(型番GA2550)もございます。弊社ホームページもぜひご覧下さい!