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細胞認証試験によるリスク管理の必要性

細胞株管理

細胞認証試験によるリスク管理の必要性

培養細胞におけるクロスコンタミネーションや細胞株の誤認証が頻発しており、世界的に問題となっています。本資料は弊社のSTRシステムを用いた細胞株の認証試験によるリスク管理について説明しています。

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細胞株誤認証、クロスコンタミネーションへの対応 細胞認証試験による リスク管理の必要性 プロメガ株式会社 • 培養細胞における細胞株誤認証やクロスコンタミネーションの実情 • 細胞株認証の必要性 • STR 解析を用いた培養細胞株認証法 • STR 解析(PowerPlex® System)の実際 • STR 解析データによる細胞管理の方法 • まとめ 1. 培養細胞における細胞株誤認証やクロスコンタミネーションの実情 培養細胞は組織、あるいは個体のモデル系として多くの実験に用い られています。特にヒトを対象とした研究の場合、個体や臓器での 実験は難しく、株化したヒト培養細胞を利用した実験が行われてい るのが現状です。しかし培養細胞の取り扱いもやはり注意が必要 で、歴史的にもクロスコンタミネーションなどの問題が指摘されて いました(1)。近年、Science や Nature などの学術誌でも細胞株 誤認証、あるいはクロスコンタミネーションの問題が取り上げられ、 ATCC(American Type Culture Collection)からは警告も出されて います(2)。Science では、German Cell Bank(DSMZ)に寄託さ れた 252 細胞株のうち 18% が間違った細胞株、あるいはコンタミ ネーションがみられたという例が紹介されています(3)。さらにこ の記事では論文を精査すると、35-40%の論文に疑わしいデータが 含まれると推定しています。また、Nature Reviews Cancer には、 16-18% の割合で誤認証がみられたことが報告されています(4)。 日本においても、(独)医薬基盤研究所 細胞バンク(JCRB)で 6% 、理研バイオリソースセンター(BRC)で 9.4% にクロスコンタミ ネーションがあったという報告がなされています(表 1 参照)(1)。 Capes-Davis らは、コンタミネーションの例をウェブ上で閲覧で きるようにしており、このサイトを 利用して細胞株誤認証・クロスコンタミネーション例を確認するこ とができます(5)。 2. 細胞株認証の必要性 欧米では細胞株認証の必要性が訴えられ、細胞バンクや学会を通じ て強い危機感が持たれていますが、日本においては、未だに細胞株 認証に対する認知度が低いのが現状です。 しかし徐々に論文投稿の際に細胞株認証が要求され始めていま す。例えば、Nature では少なくとも ES 細胞株を樹立した際には STR データ(後述)を要求しており(3)、Cancer Research を含 む American Association for Cancer Research(AACR)が発行する 全ての雑誌、Springer 社発行の In Vitro Cellular & Developmental Biology、Cell Biochemistry and Biophysics、Wiley 社発行の International Journal of Cancer などでも投稿規定にはっきりと細胞株認証を行 うことを求めています。 3. STR 解析を用いた培養細胞株認証法 米国のセルバンクである ATCC では細胞株の確認方法として、顕微 鏡による形態観察、growth curve 解析、アイソザイム解析(動物種 推定)、STR(Short Tandem Repeat)解析を推奨しています(2)。 これらの方法の中で、識別能力やデータの客観性からヒト由来細胞 株の確認方法として STR 解析がよく利用されています(5)。STR 解析は、もともと個人識別のために法医学分野で応用が始まった解 析手法であり、その高精度な解析手法は培養細胞の識別にも非常に 有用です。ATCC だけでなく日本のセルバンクにおいても STR 解析 の結果をデータベース化し、細胞を管理しています(1)。さらに各 国のセルバンクでも、ヒト由来細胞株のデータベースが構築されて おり、その際に Promega 社の PowerPlex® System がヒト由来細胞 株の STR 解析の標準法として利用されています(6)。 4. STR 解析(PowerPlex® System)の実際 STR は、2 ~ 7 塩基の短い DNA の繰り返し配列で構成され、多型 性に富むことから個人識別の分野で有用なマーカーとして使用され ています(7)。また、複数個のマーカーを解析することで識別能力 が向上します。以下図 1 A には PowerPlex® System の遺伝子座情報 を示します。これら複数のローカスにより細胞データベースが構築 され、現状の細胞バンクにある細胞を識別することが可能になって います。STR 解析では各ローカスの STR 部位を、1 本のチューブ 内で Multiplex PCR により増幅し、その後電気泳動でそれぞれのア 培養細胞におけるクロスコンタミネーションや細胞株の誤認証が頻発しており、世界的に問題となっています。このような事態は実験結果の 間違った解釈を招くばかりでなく、実験に費やす多大な時間と費用の負担を伴います。本稿では、クロスコンタミネーションの実態と細胞株 認証の必要性、また細胞株認証法について述べたいと思います。 登録番号※ 細胞名 細胞の由来 実在細胞名 細胞の由来 IFO50004 WISH 羊膜 HeLa 子宮頸癌 IFO50315 RMG-II 卵巣中腎腫 RMG-I 卵巣中腎腫 IFO50318 RTSG 卵巣未分化腺腫 SNG-II 子宮内膜腫瘍 IFO50319 RMUG-L 卵巣嚢胞腺癌 SNG-II 子宮内膜腫瘍 JCRB0092 P39/TSU 骨髄芽球性 白血病(男) HL-60 単球性白血病 細胞(女) JCRB0122 KO51 骨髄芽球性 白血病(男) K562 骨髄性白血病 JCRB0127 KOSC-3 歯肉扁平 上皮癌(女) Ca9-22 歯肉癌(女) JCRB0604 PSV811 ウェルナー、 上皮繊維芽 WI-38 胎児肺正常細 胞(女) JCRB0744 ECV304 臍帯血上皮 (女) T24 膀胱癌(女) JCRB1070 HSG c-C5 唾液腺(男) HeLa 子宮頸癌 JCRB1078 TMH-1 甲状腺癌(女) IHH-1 甲状腺癌(男) JCRB9027 KB 口腔上皮癌 HeLa 子宮頸癌 RCB0004 HMV-I メラノーマ HeLa 子宮頸癌 RCB0454 OST 骨肉腫 HeLa 子宮頸癌 RCB0712 KMT-2 臍帯血由来 単球系細胞 KG-1 急性骨髄 白血病 RCB0885 GT3TKB 胃癌 RERF-LC-AI 肺癌 表 1. コンタミネーション例の一覧 (出典:文献(1)実験医学 2008 年 Vol.26 No.4 より改変) JCRB/ 理研細胞バンクにおける調査結果の一部 ※細胞番号を示す記号。IFO は発酵研究所、JCRB は医薬基盤研の 細胞バンク、RCB は理研細胞バンクの登録番号 細胞認証試験によるリスク管理の必要性 リルの塩基配列長を決定し、遺伝子型(繰り返し回数)の判定を行 います。また、図 1 には泳動データと最終的な遺伝子型データも示 します。なお、iPS 細胞を樹立した山中教授らの論文では、識別能 力の高い 16 ローカスで判定するプロメガ社 PowerPlex® 16 System を用いて、樹立した細胞株とそのドナーの同一性を確認しています (8)。現在、樹立した iPS 細胞を分譲している理研バイオリソース センターでも PowerPlex® System を用いた iPS 細胞の管理が行われ ています。 図2. 医薬基盤研究所の細胞株認証データの 確認・検索サイト(http://cellbank.nibio. go.jp/str2/str006.html) PowerPlex® system を使って得られた遺伝 子型データを入力することで、医薬基盤研 究所が保有している約 800 種の細胞株と照 合することができる。 図 1 PowerPlex 1.2® System に含まれるローカス情報とデータ A: ローカスの情報と K562 細胞での繰り返し数。B: ABI PRISM® 310 Genetic Analyzer を使って K562 細胞の STR 解析をした泳動 データ例 B. 5. STR 解析データによる細胞管理の方法 で は、 実 際 ど の よ う に 細 胞 認 証 が 行 わ れ る の で し ょ う か? 近年、ATCC が中心となって世界的な working group(日本では医 薬基盤研究所が参加)が結成され、STR 解析を用いた細胞株認証の スタンダードプロトコルの確立と、研究者自身が保有する細胞株と 比較するための細胞株データベースの構築を目指しています(9)。 医薬基盤研究所でも細胞株を判定できるようにデータベースを構築 し、情報を提供しています(http://cellbank.nibio.go.jp/str2/str006. html)(図 2)。研究者は自身の持つ細胞株の STR 解析データを入力 して、医薬基盤研究所が保有する約 800 種の細胞株の中でデータ と照合し、細胞株を判定することができます。ただし、がん由来の 細胞株では変異率が高いため、同じ細胞株に由来しても 100% マッ チになることは少なく、そのため 80% マッチ以上を同一細胞株と する判定基準が提案されています(5)。現在医薬基盤研究所では、 研究者から依頼されたヒト細胞個別識別検査を行っており(http:// cellbank.nibio.go.jp/information/jutaku/)、さらに細胞株認証に関す る証明書も発行しています。細胞株認証書は医薬基盤研究所独自の サービスですが、STR 解析による遺伝子型データの取得自体は様々 な受託会社によっても行われており、またシーケンサーなどの機器 環境が整えば研究者自身で判定を行うことも可能です。こうした細 胞株認証は、可能であれば実験の最初と最後、あるいは必要に応じ て実験途中でも実施することが推奨されています。 6. まとめ ここまで細胞株認証の重要性をとりあげてきました。今後は大き な予算取得、あるいは論文投稿の際に細胞株認証データを求めら れるようになると考えられます。細胞株を扱う研究ではコント ロール実験などのため、複数の細胞株を扱うことが多く、常にク ロスコンタミネーションの危険を伴います。医薬基盤研究所では、 ホームページ上(http://cellbank.nibio.go.jp/cellbank/qualitycontrol/ crosscontami01.html)でクロスコンタミネーションを防止する 9 カ 条を紹介しており、日本組織培養学会でも細胞株のクロスコンタ ミネーションや取り違えに関する注意を呼びかけています(http:// jtca.umin.jp/)。細胞株の管理方法や認証試験に対する重要性は今後 ますます高まっていくと考えられます。 A. STR ローカス 染色体上の位置 繰り返し単位 (5′ → 3’) Allelic Ladder に 含まれる繰り返し数 K562 細胞で の繰り返し数 Amelogenin Xp22.1–22.3 and Y X-specific band(106bp) Y-specific band(112bp) ̶ X D16S539 16q24–qter GATA 5, 8–15 11, 12 D7S820 7q11.21–22 GATA 6–14 9, 11 D13S317 13q22–q31 TATC 7–15 8 D5S818 5q23.3–32 AGAT 7–15 11, 12 CSF1PO 5q33.3–34 AGAT 6–15 9, 10 TPOX 2p24–2pter AATG 6–13 8, 9 TH01 11p15.5 AATG 5–11 9.3 vWA 12p12–pter TCTA (complex) 11, 13–21 16 製品案内 プロメガ株式会社 本 社 〒103-0011 東京都中央区日本橋大伝馬町14-15 マツモトビル Tel. 03-3669-7981/Fax. 03-3669-7982 大阪事務所 〒532-0011 大阪市淀川区西中島6-8-8 花原第8ビル704号室 Tel. 06-6390-7051/Fax. 06-6390-7052 ※製品の仕様、価格については2010年8月現在のものであり予告なしに変更することがあります。 販売店 PK100801 参考資料 : (1)実験医学 Vol.26 No.4(3 月号)2008, 561-567 (2)Cell Line Verification Test Recommendations, (3)Science, 2007, vol. 315. no. 5814, pp. 928 – 931 (4)Nature Reviews Cancer, 2010, vol. 10, pp.441-448 http://www.nature.com/nrc/journal/v10/n6/abs/nrc2852.html (5)International Journal of Cancer, 2010, vol.127, No. 1, pp.1-8 http://www3.interscience.wiley.com/journal/123276588/abstract (6)実験医学 Vol.26 No.9(6 月号)2008, 1395-1403 (7)Am. J. Hum. Genet., 1991, vol. 49, pp.746–756 http://www. ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1683171/pdf/ajhg00081- 0054.pdf (8)Cell, 2007, Vol. 131, No. 5, pp.861-872 http://www.cell.com/ abstract/S0092-8674(07)01471-7 (9)Nature, 2010, vol. 465, pp.537 http://www.nature.com/ news/2010/100602/full/465537a.html?s=news_rss 最後に、本企画の実現に小原 有弘先生の多大なるご協力を頂戴い たしました。 ここにあらためて感謝申し上げます。 監修:独立行政法人 医薬基盤研究所 難病疾患資源研究部 JCRB 細胞バンク 小原 有弘先生 提供:プロメガ株式会社 細胞株の認証に使用される STR 解析システム STR 解析システムにより分析されるローカスと識別能力 製品名 サイズ カタログ番号 価格(¥) PowerPlex® 16 HS System 100 回分 DC2101 380,000 PowerPlex® 16 Sytem の改良型でホットスタート Taq プレミックスも含 まれます。 PowerPlex® 16 System 100 回分 DC6531 340,000 細胞の同一性について iPS 細胞の研究にも使用される。識別能力に優れ る STR システム StemEliteTM ID System 50 回分 G9530 160,000 Cell IDTM System のローカスにマウス由来のマーカーが含まれ、 マウス細胞の混入を検出できます。 Cell IDTM System 50 回分 G9500 150,000 10 ローカスを分析する STR システム。 ホットスタート Taq プレミックスも含まれます。 ローカス 識別能力 適合頻度 D5S818 D7S820 D13S317 D16S539 CSF1PO FGA D8S1179 TPOX vWA TH01 D3S1358 D18S51 D21S11 PentaD PentaE Amelogenin Mouse PowerPlex® 16(HS)System <1/1.42×1018 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● StemEliteTM ID System <1/2.92×109 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Cell IDTM System <1/2.92×109 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● PowerPlex® 1.2 System (旧製品) <1/2.74 ×108 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●:JOE ●:TMR ●:Fluorescein 高 低