1. HOME
  2. 全件表示
  3. プロメガ実験ノート vol.5 NADP/NADPH-Glo™を用いた NADP光応答性変動の検出

プロメガ実験ノート vol.5 NADP/NADPH-Glo™を用いた NADP光応答性変動の検出

プロメガ株式会社 NADP/NADPH-Glo™を用いた NADP光応答性変動の検出 はじめに 酸化還元(レドックス)補酵素であるNADPは、細胞質やミトコンドリア、ペルオキシソームなどにおいて様々な代謝反応を制御しています。 代謝反応の平衡状態はレドックス変化や補酵素プールサイズ(酸化型と還元型の総和)によって変化するため、細胞内補酵素の状態は成長やス トレス応答反応などの生命現象に大きな影響を及ぼします[1] 。植物は最適な環境を求めて自ら動くことができないため、様々な環境変化に順 化するためにはダイナミックに代謝反応を調節する必要がありますが、特に葉緑体は変動する光に応答して光合成活性を調節する重要な細胞小 器官です。光合成明反応(光化学系)で獲得したエネルギーを一時的に保存する電子受容体として、NADPは極めて重要な役割を担っています。 光化学系で生成したNADPHは、二酸化炭素の固定反応やストレス応答性の抗酸化反応等に利用されてNADPへ戻ります。したがって、葉緑体 NADPのレドックス状態やプールサイズは、様々な環境下での植物の成長戦略・適応戦略を調べる上で重要な情報となります[2,3]。これまで、 NADPの定量にはクロマトグラフィーや比色プローブを用いた酵素サイクリング法が用いられてきました。これらの方法では、組織によっては サンプリングと抽出の過程でNADPのレドックス状態が変わってしまうことや、検出に数百mgの均一な新鮮サンプルが必要であるため、NAD キナーゼの矮性変異体等では定量が困難であるなどの問題がありました[2] 。 筆者らは、NADP/NADPH-Glo™を用いることで、サンプリングから抽出測定までの実験時間を大幅に短縮し、多検体のサンプルを安定的か つ効率的に分析することができました。本手法は、今後のNADP研究の進展を支えるツールの1つとなることが期待されますので、ここで紹介 させていただきます。 1. 実験デザイン モデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)野生株 Col-0系統を実験に使用しました。変動光に対する葉緑体NADP量の 応答(図1)を調べるため、暗順化後に30分周期の明暗サイクルを3 時間与える実験を繰り返し、明期と暗期それぞれの終わりの時点での NADP含有量を測定しました。短周期の光変動で誘導されるNADP変 動を検出するためには、実験誤差の小さいサンプル調製法が必要とな ります。 一般財団法人 電力中央研究所・環境科学研究所 生物環境領域 橋田 慎之介 Vol. 5 図2:従来法と迅速簡易法によるNADP測定用サンプル調製の概略 2. 迅速簡易法によるサンプル調製 図1:明暗サイクルと葉緑体NADPプール 葉緑体NADPプールは昼間に増大し夜間に減少します。昼間の増大には 葉緑体型NADキナーゼの光活性化が関与すると考えられていますが、夜間 の減少メカニズムについてはあまり知られていません。 葉緑体のNADPレドックス状態の変動は、光化学系装置 (色素-タンパク質複合体)が機能する限り継続します。 サンプル調製の過程で晒される光環境が誤差要因となるた め、サンプリングから不活化までの工程では細心の注意を 払いつつ迅速に進める必要があります。今回、低バックグ ラウンドでNADPを高感度で検出できるNADP/NADPH-Glo ™を使用することで、少量のサンプルから迅速かつ簡易に 測定液を調製可能となりました。 図2に従来法[4]と今回適用した迅速簡易法のそれぞれの 流れを示します。迅速簡易法では、はじめにリーフディス クを実験に使用し、変動光処理の後は希塩酸に直接回収し ます。次に、ボイルしてから破砕することで液体窒素によ る破砕を省略しました。最後に、中和してから上清を遠心 で回収し、 NADP/NADPH-Glo™による測定に使用しまし た。この手法では、不活化までに意図しない光環境に晒さ れることなくサンプル調製時間が短縮されます。 製品名 サイズ カタログ番号 価格(¥) 90,000 関連製品 こんなところで苦労しました NADP/NADPH-Glo™ Assays 10mL(100回分) 参考文献 1. Hashida SN., Takahashi H. and Uchimiya H. The role of NAD biosynthesis in plant development and stress responses. Ann. Bot. 103:819-824. 2009 2. Takahashi H., Takahara K., Hashida SN., Hirabayashi T., Fujimori T., Kawai-Yamada M., Yamaya T., Yanagisawa S. and Uchimiya H. Pleiotropic modulation of carbon and nitrogen metabolism in Arabidopsis plants overexpressing the NAD kinase2 gene. Plant Physiol. 151:110-113. 2009 3. Takahara K., Kasajima I., Takahashi H., Hashida SN., Itami T., Onodera H., Toki S., Yanagisawa S., Kawai-Yamada M. and Uchimiya H. Metabolome and photochemical analysis of Rice plants overexpressing Arabidopsis NAD kinase gene. Plant Physiol. 152:1863-1873. 2010 4. Queval G. and Noctor G. A plate reader method for the measurement of NAD, NADP, glutathione, and ascorbate in tissue extracts: Application to redox profiling during Arabidopsis rosette development. Anal. Biochem. 363:58-69. 2007 3. 葉緑体NADPの光応答性変動検出に対するNADP/NADPH-Glo™の適用性 図3 : NADP/NADPH-Glo™による測定結果のばらつき 従来法には294枚、迅速簡易法には240枚のリーフディスクを使用し ました。明期・暗期ともに1ウェルあたり2枚のリーフディスクを NADP測定に使用し、これを3反復したときの変動係数をそれぞれグラ フに示しました(A) 。NADP/NADPH-Glo™による検出は、テクニカル マニュアルでは測定試薬を添加して30~60分後とされていますが、ス タンダード(1~5 μmol NADP)測定の結果からは15分後以降でばら つきの小さい定量結果が得られました(B) 。今回は試薬添加後20分で NADP定量を行いました。 G9081 NADP/NADPH-Glo™は検出感度が高いため、高濃度のサンプルの場合は試薬添加後に30分を過ぎるとダイナミックレンジの上限を超えて しまう可能性があります。測定結果を安定させるため、実験環境に合わせてサンプルサイズや試薬濃度を最適化する必要がありました。測定 した5~10分後に再測定して、発光強度が飽和していないことを確認することをお勧めします。最終的に2枚のリーフディスクを用いる実験 系にたどり着きましたが、できるだけ同じ位置(葉の基部側、端部側または中心部など)からリーフディスクを作製するよう注意しました。 従来法でサンプル調製をする場合、暗期サンプルの取り扱いは特に注意が必要です。葉を切除した後に秤量して液体窒素で凍結・破砕する過 程で実験室の灯りの影響を受けないよう気をつけなければなりません。今回は、日中に実験室内の灯りを消し、下ろしたブラインドからわずか に漏れる自然光の下でサンプル調製を行いました。細心の注意にも関わらず、従来法で調製した暗期サンプルは明期サンプルと比べても測定結 果のばらつきが大きく(変動係数の中央値(n = 49):明期0.117、暗期0.185)(図3A)、場合によっては明期と暗期のそれぞれのNADP 測定値の間に統計的な有意差が認められないケースがありました。一方で、迅速簡易法では明期と暗期との間でばらつきの大きさにはほとんど 差がなく(変動係数の中央値(n = 40):明期0.087、暗期0.091)(図3A)、サンプル調製過程で光環境の影響を受けていませんでした。 この結果から、 NADP/NADPH-Glo™を使用することで迅速簡易法が適用可能となり、サンプル調製の手間と時間が短縮できただけではなく、 葉緑体NADPの光応答性変動を安定して検出することに成功しました。 従来法の吸光検出では、比色プローブの吸光変化の速度(傾き)から検量線を作成してNADP量を算出します。これに対して、 NADP/NADPH-Glo™によるNADPの発光検出は傾きを求めることなく、1ポイントの測定で検量線を作成できることもメリットです。サンプル 調製液に測定試薬を添加して最短20分程度で信頼性の高い測定結果を得ることができます(図3B)。 プロメガ株式会社 本 社 〒103-0011 東京都中央区日本橋大伝馬町14-15 マツモトビル Tel. 03-3669-7981 / Fax. 03-3669-7982 大阪事務所 〒532-0011 大阪市淀川区西中島6-8-8 花原第8ビル704号室 Tel. 06-6390-7051 / Fax. 06-6390-7052 日本語 Web site : www.promega.co.jp テクニカルサービス ● Tel. 03-3669-7980 / Fax. 03-3669-7982 ● E-mail: prometec@jp.promega.com 販売店: PKS171101 *製品の仕様、価格については2017年11月現在のものであり予告なしに変更することがあります。