プロメガクラブ研究室探訪

埼玉医科大学 片桐 岳信先生インタビュー

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プロメガクラブ研究室探訪:

~ Nature Communications 誌アクセプトおめでとうございます!~

埼玉医科大学 医学部 ゲノム基礎医学
片桐 岳信 先生インタビュー

希少疾患 FOP(進行性骨化性線維異形成)の発症機序に関する長年のご研究がついに論文化 !
プロメガクラブが先生にインタビューを実施! カギとなるデータの取得に弊社 NanoBiTシステムをご活用いただき、
世界初の発見に至った道のりを伺いました。

ご研究テーマである進行性骨化性線維異形成症(FOP)について教えて頂けますでしょうか。

進行性骨化性線維異形成症(FOP)は、私が埼玉医科大学に赴任して、2005年から研究を始めました。FOPの本格的な研究は、我々が日本で初めて始めたものです。超希少疾患で200万人に一人ぐらい、日本に多分60~80人ぐらいの患者さんしかいらっしゃらない病気です。全身の筋肉が徐々に骨になるという病気で、我々がここで研究を始めた当初は国内で全然研究されていなくて、そもそも病気を知っているドクターもほとんどいないというような疾患でした。私は、大学院生のときから、骨をつくる成長因子BMPという分子のいろいろな働き、シグナル、受容体などの研究をしてきました。FOPという病気は、このシグナルの異常で発症することを世界中の研究者も予想していたんですけど、発症原因は明らかでありませんでした。

これまでの先行研究の流れと今回のご研究のポイントについてお聞かせください。

アメリカ、フィラデルフィアの整形外科医Frederick Kaplan先生が、昔からFOPを研究されていました。他のグループは、少数の患者さんを診察していましたが、原因を調べる基礎研究はできていないという状況でした。2006年、Kaplan先生のグループは、世界に数例しかない家族性のFOP症例の遺伝子を解析し、骨を作る成長因子BMPの受容体であるALK2が原因であることを見つけました。
その論文が出てから、我々も国内の患者さんから提供して頂いた遺伝子を全部調べ、全く同じ変異があるということが分かりました。ただ、なぜ、変異すると骨形成のシグナルが流れるかがわからず、いろいろな実験を行いました。その結果、遺伝的に変異したALK2受容体は、機能が亢進した状態になっていることが分かりました。さらに、アメリカの製薬企業が、骨を作らないはずのアクチビンAというリガンドが、このFOPで変異したALK2受容体のリガンドになって骨形成を誘導することを2015年に発見しました。変異していない野生型のALK2受容体にも結合するものの、骨形成のシグナルは誘導しない。一方、患者さんの変異を持っているALK2受容体だと骨形成のシグナルが活性化される。どうして、ALK2の細胞内領域に変異があると、細胞の外にリガンドが結合したときに信号が流れになるのか、というのが分かりませんでした。
我々は、国内の製薬企業とALK2受容体の細胞外領域に結合してシグナルを阻害する抗体を開発していました。その抗体の作用機序の解析から、抗体は細胞表面でALK2の2量体を作ってシグナルを阻害することが分かりました。でも、本来のリガンドであるBMPも2量体の分子なので、受容体で形成される2量体は形の違いがあるのではないか?と予想しました。それまでに、リガンドと受容体の細胞外領域を用いた結晶構造解析はありましたが、細胞の中の会合状態を調べる実験系が何かあれば、それを解明できるのではないかと考えました。

片桐先生はもともとレポーターアッセイの系を使われていましたが、どのような流れで今回の論文発表につながったのでしょうか?

我々は、35年近く、骨を誘導するBMPという成長因子の研究に取り組んでいます。その過程で、1994年に、BMPによる筋組織での異所性の骨誘導活性を、筋芽細胞を用いた培養系で再現できる実験系を構築しました(Katagiri et al, J Cell Biol, 1994)。この培養系を用いて、BMPの細胞内シグナルをルシフェラーゼアッセイで定量的に検出できる方法を探しました。最終的に、Id1というBMPの初期応答遺伝子を見つけ、その上流にあるBMP応答エンハンサーを同定し、BMPシグナルを特異的に検出できるレポーター系を作りました(Katagiri et al, Genes Cells, 2002)。このBMPレポーターの定量化には、Dual-Gloアッセイシステムが高感度に測定できて非常に適していました。このBMPレポーターを使い、我々が開発した阻害抗体などの影響や、変異したALK2受容体のシグナルが過剰になっていることを研究しました。けれども、このアッセイ系では、どうしてシグナルがONになるのかが分からないんですね。そこで、生きた細胞内で、高感度にタンパク質間相互作用を検出できるNanoBiTの系を利用できるのではと考えました。

NanoBiTがリアルタイムで測定できることは、今回の結果にどのような影響がありましたか?

我々は、「リアルタイム」 ということと 「生きている細胞で測定できる」 というこの2点はすごく重要なことだと思っています。従来法ですと、例えば培養している細胞にリガンドをかけて15分、30分、あるいは一晩など、ある時間で切って細胞を固定し、その抽出液を調整して、共免疫沈降実験などで、会合状態を解析するというような実験です。しかし、こうした研究を行っている方の多くが感じると思いますが、そもそも特定の時間で切り取ることが正しいのか疑問があります。さらに、共免疫沈降実験等では、目的分子の会合がいつ起きたのか、本当に生きた細胞内で会合していたのか、あるいは抽出液だから会合したのか、確信を持てないという問題があると思います。
 我々のBMPシグナルの場合では、初期応答遺伝子が30分以内に動くので、受容体はその前に当然動いているはずですが、どのように変化しているのか、今まで誰も見たことがありませんでした。今回、NanoBiTの測定法をある程度確立できるまで、我々もかなり苦労しました。どのような条件で細胞にプラスミドをトランスフェクションしたら良いか、どのタイミングでNanoLuc活性を測定したら良いか、全てが手探りで、今の形が出来上がるまでに5年近くかかりました。最終的には、私達の研究室にあるルミノメーターで測定できる限界近く2分ごとに、初期応答遺伝子の発現が安定する1時間程度まで測定することにしました。すると、リガンドを添加して10分以内に受容体の会合を示すピークが出てくるのが見えてきました。このようにタイムラプスのような実験系は、他にも色々な応用法があるということだと思います。自分たちが解析したい現象が見えるように実験系を最適化するのには、かなり時間がかかるかも知れません。しかし、いったん最適化できれば、これまでにない非常に優れた実験系と思います。

HiBiTによる強制的な2量体化の実験について詳しく教えてください。

今回の論文では、HiBiTを使って特定の受容体複合体を形成させ、その活性を解析しました。特に今回の実験では、2分子の受容体の片方が野生型でもう一方が疾患の変異体のヘテロ2量体受容体の活性を調べるのに役立ちました。
僕らは骨を作るBMPの受容体にNanoBiTとHiBiTを利用したように、恐らく、膜分子だけでなく転写因子なども含め、HiBiTで強制的に分子を会合させる方法は応用できると考えています。単なる2分子の同時発現ではなくて、目的分子2分子の複合体を形成させることができるのは、すばらしい技術と思いました。その際、NanoBiTのHSV-TKベクターの発現レベルがすごく低いということを考えると、通常の過剰発現実験に比べれば、かなり生理的に近い状況解析でできているものと考えています。

今回、レポーターアッセイ、NanoBiT、HiBiTをご使用頂きましたが、今後プロメガに期待する製品・技術はありますでしょうか。

プロメガの製品は、それぞれクオリティーがものすごく高いので、信頼性がとても高いと感じます。実際、今回の研究でも、NanoBiT、HiBiTも良い使い道があるシステムだということを証明できました。今後、さらにさまざまな分子間相互作用を、低価格で解析できるシステムを開発して頂けることを期待しております。

片桐先生、この度はインタビューをお受けいただき誠にありがとうございました!

併せてご覧ください!
片桐研究室 研究紹介動画
▶ 第46回 日本分子生物学会(神戸 12/6) バイテクセミナーにてご講演決定