M-MLV Reverse Transcriptase, RNase H Minus

RNase H ( - )の逆転写酵素を使うとどんな利点がありますか?

M-MLV Reverse Transcriptase, RNase H Minusは完全長cDNAライブラリーの構築に最適の酵素です。

 プロメガではRNase H Minus逆転写酵素として、欠失変異型(カタログ番号M5301)と点変異型(カタログ番号M3682)の二種類を用意しています。

 逆転写酵素[Reverse Transcriptase(RT)]は、RNAを鋳型にして相補的なDNA[complementary DNA(cDNA)]の合成を触媒するDNAポリメラーゼの一つです(1-3)。RNAに相補的なcDNAを合成する逆転写酵素の能力は、cDNAライブラリーの構築をはじめ、RT-PCR(a)やプライマー伸長法、RNAシークエンシング等、幅広いアプリケーションで使われています。

 最も一般的に使われている逆転写酵素には、鳥類の骨髄腫瘍ウイルスから精製されるAMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素(4,5)と、M-MLV(Moloney Murine Leukemia Virus)由来の組替え酵素を生産する、大腸菌株から精製される逆転写酵素(6,7)の2種類があります。両酵素は2つの主要な活性、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性とRNase H活性を有しています。DNAポリメラーゼ活性はcDNA合成が必要な全てのアプリケーションにおいて必須の活性です。しかしながらRNase H活性は、完全長のcDNAの生成に干渉し、望ましい活性とは言えません。

 RNase H活性は、cDNA合成に最も適した逆転写酵素を選択する際に、重要な考慮事項となります。逆転写酵素のRNase H活性は大腸菌が有するRNase Hと同様に、RNA:DNAハイブリッド鎖のRNA鎖を分解します。いったんcDNAが合成されると、そのRNA:DNAハイブリッド鎖は逆転写酵素のRNase H活性の基質となります。cDNA合成におけるRNase H活性は、cDNA全体の合成量と完全長cDNAの割合を低下させるといった、二重の影響を与えます。逆転写は鋳型RNAの特異的な配列(poly(A)テール等)にハイブリダイズした、DNAプライマーから開始されます。プライマー:RNA ハイブリッドは重合反応の開始点としてだけでなく、RNase H活性の基質としても働きます。合成されたcDNAの収量はRNA:DNAハイブリッドがRNase H活性によってどれだけ分解されるかということに反比例します。いくつかのアプリケーションでは、cDNA合成を検出するのに必要なRNAの最小量が割増してしまいます。さらに、RNase H活性はDNAの重合が起こっている付近のRNA鎖を分解します。これにより、RNAのコピーされていない部分が転写複合体から乖離し、cDNA合成はそこで終結してしまいます。RNA分子が長くなればなるほど、こうした現象が生じやすくなります。RNase H活性の存在下において、長いRNA分子(5kb以上)は完全長のcDNAを生じにくくなります。
 逆転写酵素のDNAポリメラーゼ活性は付随するRNase H活性に依存しません。このようにRNase H活性はcDNA合成にとって有害ですが、RNase H活性を除去した逆転写酵素を用いることによって問題を解消することができます。活性の除去はタンパク質のRNase H領域に変異を導入することで達成されます。このような逆転写酵素はRNase H Minusと呼ばれます。RNase活性の除去により、primer:RNAハイブリッドが分解されにくくなるので、逆転写の開始反応が効率良く行われるようになります。さらに、重合反応が起きている付近で鋳型が分解され、反応が終結してしまう傾向もなくなり、完全長cDNAの合成がより効率的になります。高い割合で完全長のcDNAが必要なcDNAライブラリー合成などのアプリケーションでは、RNase H Minus逆転写酵素を推奨します。

 2種類のRNase H Minus逆転写酵素がプロメガから入手可能です。両酵素はM-MLV逆転写酵素の組み換え体です。M-MLV Reverse Transcriptase, RNase H Minus, Point Mutant(カタログ番号M3682)は、RNase H領域に点変異を導入することでRNase H Minusにしました。本製品は、RNase H minus reverse transcriptase, SuperScript? IIとして良く知られている酵素と機能的に同等の製品です。さらに、プロメガではM-MLV Reverse Transcriptase, RNase H Minus(カタログ番号M5301)という製品も提供しています。本製品はRNase H領域を欠失させて酵素活性を除いていて、機能的にM-MLV Reverse Transcriptase, RNase H Minus, Point Mutantと類似する製品です。M-MLV Reverse Transcriptase, RNase H Minusは一般的に知られるRNase H minus reverse transcriptase, SuperScript? IIと機能的に同等です。

参照文献

  1. Eun, H.-M. (1996) Enzymology Primer for Recombinant DNA Technology, Academic Press, San Diego, California, 427.
  2. Gerard, G.F. and D’Alessio, J. (1993) In: Methods in Molecular Biology, Vol. 16: Enzymes of Molecular Biology, Burrell, M.M., ed., Humana Press, Totowa, New Jersey, 73.
  3. Enzyme Resource Guide, Vol. 1: Polymerases BR075A, Promega Corporation.
  4. Kacian, D.L. (1977) Meth. Virol. 6, 143.
  5. Houts, G.E. et al. (1979) Reverse transcriptase from avian myeloblastosis virus. J. Virol. 29, 517.
  6. Roth, M.J., Tanese, N. and Goff, S.P. (1985) Purification and characterization of murine retroviral reverse transcriptase expressed in Escherichia coli. J. Biol. Chem. 260, 9326.
  7. Verma, I.M. (1974) In: The Enzymes, Boyer, P.D., ed., Academic Press, New York, 87.

(a)The PCR process is covered by patents issued and applicable in certain countries. Promega does not encourage or support the unauthorized or unlicensed use of the PCR process.

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